もっともっと多くの人に、特に子どもたちにテニスを楽しんでもらいたい、僕なりに何かできないか、僕だからこそできることはないかと考えていたところ、『小学校学習指導要領解説体育編』において、「バドミントンやテニスを基にした易しい(簡易化された)ゲーム」が例示されたという話を聞き、「体育の授業で子どもたちがテニスに親しみ、その面白さを知る大きなチャンスが到来した!」と期待が膨らみました。
東京学芸大学附属小金井小学校の今井茂樹先生が、16年も前から体育の授業にテニスを取り入れ、研究を続けていると聞き、どんな授業をされているのか、見学させていただきました。子どもたちは、ラケットの代わりに、手の平より大きなスポンジを貼り合わせた“ハンドラケット”を手にはめ、スポンジボールを打ち返していました。今井先生に伺ったところ、以前、ミニラケットを用いたテニスを授業に取り入れたものの、ラケットを上手に使いこなせない子どもが多く、できる子とできない子の差が出てしまったとのこと。そこで手作りのハンドラケットを用意したところ、たいていの子どもたちがボールを打ち返すことができたそうです。
児童全員がボールを打てるように、ルールもよく考えられていました。チームごとに戦略を練る機会もあり、授業の最後には、その戦略の良かった点や反省点を発表する子どもたちの姿がありました。そして次の時間には、それぞれの課題に応じた練習メニューに取り組み、またゲームを楽しんでいました。
数回のテニピンの授業後、ミニラケットを使った実践に進むと、子どもたちは用具を上手に使いこなし、ゲームに興じていました。テニピンを通じて、ボールのバウンド位置を予測し、体とボールの距離感を把握し、リズムを合わせて打ち返すことができるようになっていたのです。
授業を見学させていただいて僕が一番うれしかったのは、楽しそうに笑顔でボールを追いかけていた子どもたちの姿です。技術を向上させることだけが目的ではなく、コミュニケーション力、決断力、自分たちで作ったルールを守る、そういった子どもたちの心を育む授業が展開されていました。だからこそ、安全で、簡単で、みんなが楽しめるテニピンを授業に取り入れ、子どもたちと一緒にテニスの魅力を味わってほしい—。この思いを、ひとりでも多くの先生方にご理解いただけるよう、テニピン普及のお手伝いをこれからもさせていただきたいと思っています。
日本テニス協会 強化副本部長 松岡 修造